憩いの場所があるからこそ輝く。
それはお気に入りのソファーの上。行きつけの居酒屋の隅のカウンター。あるいは、緑あふれる公園のベンチなど人それぞれ。
常に僕たちはそんな憩いの場所があるから、毎日を頑張っていけるのだと思う。
僕たちの大切なモノも同じく、そういう場所があって初めて輝くのではないか。
収納するのではなく、みんなに見てもらえることによって本当の良さが見えてくることもあるのでは。
そのような想いから産まれたアイテムがあります。
そのアイテムを生み出したのはcolmdesign(コルムデザイン)のプロダクトデザイナー成田吉宣さん。
大阪デザイナー専門学校を卒業後、大阪のプロダクトデザイン事務所を経て、生まれ故郷の富山にUターンしたタイミングの2019年にデザイン事務所colmdesignを立ち上げた。
そして、プロジェクトの一環として、いろんな事をやってみる、試すという成田さんの想いで「ココロミル」を文字って名付けられた、オリジナルブランドcolm(コルム)が始動。
「服や時計、アクセサリーなど大切なモノを収納するのではなく、目に留まり手の届く場所に置いておきたいとずっと思っていたんです。」
colm(コルム)が始動すると同時に誕生した第1弾のアイテムは、成田さんの想いが詰まった大切なモノを置きたくなるトレイだった。
素材は、成田さん自身の生活や仕事であるプロダクトデザインを通して一番馴染みのあるレザー。
成田さんが作るレザープロダクトの多くは兵庫県たつの市のタンナーの手により植物タンニンでなめし作られた牛ヌメ革を採用している。
「より丈夫だったり水に強かったり、革より機能面で優れた素材はたくさんありますが、新品の状態がベストではなく時間の経過とともに変化を楽しめる魅力的な素材だと思っています。
そして、トレイに置く大切なモノに代わり傷を負ってくれます。そして、それは時間とともに味わいに変わって、より愛着ある自分自身にとって唯一無二のものになると考えています。
また、自然のものからできているのですべて土に還る優しい素材というのも魅力ですね。」
colmのレザートレイは革絞りという伝統的な工法で1点ずつ時間をかけて丁寧に作り上げている。
革絞りとはヌメ革の可塑性という性質を活かして、水に濡らして柔らかくし、雄と雌の型でプレスし1枚革を縫製せずに立体成型する技法。
「いつか自分自身でモノづくりをするときは、興味があった革絞りの技法を使おうと思ってました。」と、成田さん。
しかし、従来の革しぼりで使用する木製の型は単純な形状になりやすかった。
そこで、伝統的な技法をそのまま使うのだけではなく、複雑で美しいフォルムを完成させるために、レザートレイの3Dデータを起こし、自動フライス盤(CNC)によって3D切削加工した樹脂製の型を作製。
この樹脂製の型で革絞りという伝統技法と3Dデータを使った現代技術の融合で、複雑かつ滑らかな曲線の美しいフォルムを実現したレザートレイは、成田さんの飽くなき探求心と願望の賜物であった。
そんな成田さんのデザインに対する探求心の原点はテレビ番組だった。
「子どもの頃、NHK教育テレビで放送されていた『できるかな』という番組ですね。デザインというかモノづくりの面白さに目覚めました。」
懐かしそうに成田さんが教えてくれました。
知ってる方も多いかと思いますが、『できるかな』は言葉を一切話さないお兄さん”ノッポさん”と鳴き声しか発しない着ぐるみの”ゴン太くん”が繰り広げる無言による工作劇。
「こんなものが手で作れるなんてすごい。」
番組を始めて観た瞬間に感動し、幼心ながらも工作意欲に火が付き、見よう見まねで工作。
「でも、ノッポさんのように全然上手に作れず、悔しい気持ちをしたのを覚えています。
でも、幼い頃に体験した工作をすることの面白さ、上手くいかないときの悔しさ、悔しさを乗り越えて上手くできたときの達成感などが、今に繋がってるんだと思います。」
そして、今レザートレイだけでなく、カードケース、ウォレットとアイテムを展開。
もちろん、レザートレイと同じく3D切削加工した樹脂製の型を使用した革絞りで製作したアイテムである。
「革絞りという技法でも革という素材自体にもまだまだ可能性を感じています。」
革絞りを使ったプロダクトシリーズは、まだまだ成田さんの中では構想が広がっているそう。
「でも、もっと面白い素材・製法を知り、いろいろなモノを作っていきたいと思ってます。」
現在、成田さんは主に商品企画、そして、商品の製作は元靴職人である奥さんが行う二人三脚で活動中。
『幼き頃と変わらないモノづくりへの好奇心に従い、素材・製法など様々な試みる』を続けて、お二人により今後生み出されるプロダクトが楽しみです。